Pekoのブログ

世の中のこと

言語学の観点から読み解くルーク(スターウォーズ)の3つ目の教えとは(ネタバレ注意)

2017年末に公開されたStar Wars: The Last Jediでは、ジェダイマスターであるルークが、ジェダイの教えを主人公であるレイに語るシーンがあります。

 

最初、ルークは、その教えが3つあると言っているのですが、実際の映画では、以下の2つしか"ルークの口からは"明確に説明されていません。("ルークの口から"というのがポイントです)

 

1、フォースは、ジェダイのみが支配するわけではない

2、ジェダイが作ってきたのは負の遺産

 

なぜか、3つ目は映画を最後まで見ても、はっきりとは出てこないのです。

 

この点に関して、いろいろと気になって、海外のサイトも含めていろいろと調べてみたのですが、これといって決定的な答えは見つかっていないようです。

 

一番、有力な説が、このサイトにも記載されています。サイトによると、約20分間のカットシーンがあり、その中でルークが3つ目の教えを伝えているというのです。

 

そのカットシーンでは、ルークとレイが会話をしている最中に、ボートが島に近づいて来ます。ルークは、彼らは海賊で、島のケアテイカーたちから物を奪いに来ていると言います。それを聞いたレイはすぐさまライトセイバーを持ち、ケアテイカーたちを救出に向かいます。

 

実際に、海岸に着いてみると、海賊ではなく、ケアテイカーたちがパーティーをしている光景が広がっていました。レイは、ルークにだまされたと思い、憤慨してルークに問い詰めると、こう言います。

 

"that that’s exactly what the resistance needs – not some old husk of a failed religion. "

(それがまさしく、レジスタンスが必要としていることなんだ。老いぼれのジェダイの教えなんかではなくね。)

 

つまり、"誰かの教えを請うのではなく、実際に行動することが大切なんだ"ということを3つ目のレッスンとしてルークは伝えたかったんだ、と主張しています。

 

ところが、なんとなく最後の教えとしては、陳腐な感じがします。どことなく、ありきたりな内容のような気もします。

 

さらに、ルークは、これが"3つ目の教え"とは、はっきりと述べていない点も気になります。(1つ目、2つ目ははっきりと言っています)

 

中には、エピソード9で、霊体化したルークが語るんじゃないか、という噂まで出てきています。

 

では、3つ目の教えとは何なのか?

 

以下は、あくまでも事実関係を結びつけた上での推測の話としてお読みください。

 

まず、大切なことは、この教えを三つ個別に考えるのではなく、3つで1つと考えることです。すなわち、3つが揃って、一貫した教えになるということです。

 

では、その一貫生とは何でしょうか?

 

教えの1つ目、2つ目にも関連していることですが、ルークの基本的な姿勢は、「ジェダイ(ライトサイド)の正しさ」を主張することではなく、シス(ダークサイド)と共存することで「バランスを保つ」ことの大切さです。

 

つまり、世の中を支配するフォースは、ライトサイドとダークサイドの両面があって成り立っているということです。

 

1、フォースは、ジェダイのみが支配するわけではない

 

この教えは、わかりやすいでしょう。では、次を見てみましょう。

 

2、ジェダイが作ってきたのは負の遺産

 

これに関しては、これまでのすべてダークサイドの台頭(帝国、ファーストオーダー)は、ライトサイドが引き起こしたということです。つまり、

 

スターウォーズの歴史を振り返っても、ライトサイド→ダークサイド→ライトサイドとどの覇権が交互に入れ替わっていることがわかると思います。

 

この世の中のバランスの概念についてはこちらの本を参照ください。

スター・ウォーズ ジェダイの哲学 :フォースの導きで運命を全うせよ

ここでも、世の中のバランスのことを説いているわけです。

 

さて、ここまで、2つ目の教えは、「バランスの大切さ」が一貫して示唆されています。

 

同様の目線で、3つ目の教えも見ていきます。

 

ここからは、完全に私の独自の視点となりますが、結論からいうと、「ルークは、あえて3つ目の教えを語らなかった」となります。

 

この点について解説する前に、一旦、話を言語学の話にします。

 

言語学の考え方の中に、系列的関係性(Paradigmatic relation)というものがあります。

 

これは、言語で、A-B-C と並んだ要素の中で,例えば A の代わりに A' や A'' や A''' が現われることも可能だったし,B の代わりに B' や B'' や B''' が現われることも可能だったが,ここでは A と B がそれぞれ選択されたと考えます。

 

このとき,A, A', A'', A''', etc. や B, B', B'', B''', etc. の各要素間は系列的関係 (paradigmatic relation) にあるといわれます。

 

例えば、I want to eat ramen.と言った場合、それ以外に、

 

I want to eat soba.

I want to eat udon.

 

と言う話し手の選択の可能性があったわけです。

 

つまり、I want to eat ramen. と言った場合、間接的には、

 

I dont't want to eat soba.

I don't want to eat udon.

 

と言っていることと同じことです。

 

つまり、人間は、Aという発言をしたときには、自動的にAと対極にあるA'、A''、A'''を同時に想起しているということになります。

 

もう一つ例を出しましょう。

 

あなたは、下の女性の写真を見て、どう思いますか? 

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 「綺麗」、「可愛い」、「美人」という言葉を思い浮かべる人が多いことでしょう。

 

こうした言葉が出てくるのは、世の中には、「ブサイク」、「醜悪」、「ブス」という容姿をした女性がいるからこそ、生まれてくるのです。

 

世の中、全員、石原さとみのような容姿であれば「綺麗」、「可愛い」、「美人」「ブサイク」、「醜悪」、「ブス」という言葉は生まれてこないのです。

 

つまり、我々は、ある言葉を発すると同時に、その言葉の対極にある概念も同時に頭に思い浮かべている(意識的にしろ、無意識的にしろ)ということになります。

 

別の言い方をすると、これら対極の言葉が存在するということは、当然、現実世界には、それらの言葉が差し示す事物(ソシュールの言うシニフィエ)があるということになります。

この「美人」と「ブス」が差し示す事物がセットになって「女性」を構成することになります。

 

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つまり、「ある言葉を発することは、物事の一面を切り取り、焦点化させる機能がある」ということを覚えておいてください。

 

さて、スターウォーズに話を戻しましょう。

 

 ルークが、最後のジェダイの作中で、ライトサイドであるレイと、ダークサイドであるカイロ・レン2人に共通に投げかける言葉があります。

 

Every single word that you're making is wrong.

(お前が発する言葉一つ一つが間違っておる)

 

まだDVDが発売されていないので、正確な言葉は覚えていませんが、上記のような言葉を2人に違う場面でルークは投げかけています。

 

その場面とは、レイとカイロ・レンがお互いの信念について述べた直後にルークが発しているのです。

 

「ある言葉を発することは、物事の一面を切り取り、焦点化させる機能がある」という言語学の系列的関係性のことを思い出して見ましょう。

 

つまり、

 

レイが発する言葉=ライトサイドの側面

カイロ・レンが発する言葉=ダークサイドの側面

 

と捉えることにより、ルークは、2人に共通して伝えることは、

 

「お前たちが見ていること(考えていること)は、物事の一面であり、すべてではない」

 

と伝えていると考えることはできないでしょうか。

 

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だから、ルークは、あえて3つ目の教えを言葉にはしなかったのです。

 

言葉にするということは、物事の一面しか見ていないことになるので、ルークは3つ目の教えをあえて口にしなかったという結論になります。

 

フォース(=世の中)は、ライドサイドとダークサイドから成り立っている。一方を否定することは、自分たちの存在をも否定することになる。

 

そのことを、「ジェダイの3つの教え」以外の場面で、ライトサイドの代表であるレイと、ダークサイド代表のカイロ・レンに間接的に伝えることで、フォースの真の姿を説いているというのは、考えすぎでしょうか。

 

このように考えることで、ジェダイの教え①、②とも整合性が取れてきます。

 

以上のようなことを、制作サイドが意図して、3つ目の教えをあえて入れなかった、と考えるのは少し飛躍しすぎのように思いますが、意図的であったにせよ、そうでなかったにせよ、言語学的な観点から見ると、3つ目の教えが欠落したことで、見事なほど、ルークは世の中の理を伝えているという結果になっているのです。

 

こうした偶然の産物が、結果的に、スターウォーズという映画の魅力をさらに引き立てているのも、目に見えない魔力がこの映画に宿っているとしか言いようがありません。